顔面神経麻痺の治療

手術

 ベル麻痺やハント症候群を原因とする急性期の回復性麻痺の場合、主に薬物投与が適応になりますので、顔面神経管開放術の適応となるような特殊な場合を除き、形成外科的手術治療の対象になることはありません。

 しかし、急性期の非回復性麻痺に分類される、聴神経腫瘍摘出術時などに明らかに顔面神経の損傷があり、麻痺が生じている場合などでは、健常側の顔面神経を利用した顔面交差神経移植術や、患側の顔面神経以外の神経、例えば三叉神経や舌下神経を利用した神経交差術の適応となります。また、耳下腺癌の摘出時に顔面神経を合併切除した場合では、顔面神経の近位側断端と遠位側断端を神経移植することによりバイパスする手術を摘出と同時に行った方がより良い結果が得られます。

 

 麻痺後1年以上経った慢性期の麻痺は(正しくは、陳旧性麻痺と呼びます)、表情筋が萎縮してしまうので、静的再建術や動的再建術という形成外科的再建手術が行われます。手術は麻痺の状態により部位別に適切な方法が選択されますが、もっとも難しいのは自然な「笑いの表情」を回復させることです。

以下は、麻痺を生じた部位と適応手術の例です。

 

前頭部:

前頭筋麻痺による眉毛の下垂や上眼瞼の下垂のための視野障害がある場合は、下垂した眉毛を挙上する手術を行います。

眼瞼部:

眼輪筋麻痺(閉瞼機能障害麻痺性兎眼)がある場合は、目を閉じることができるようにするため、上眼瞼にゴールドプレート(金の板状おもり)を入れたり、側頭筋を移行したりする手術を行います。

口角 ・鼻唇溝・頬部:

頬部の筋肉麻痺による障害がある場合は、自然あるいは自然に近い「笑いの表情」を再建することが目標となります。筋肉(主に広背筋や薄筋)に神経と血管をつけて切り離し、それを頬部皮下に移植する手術を行いますが、移植した筋肉が動くようになるには、神経再生が必要になりますので、約6~12カ月を必要とします。

広背筋移植による「笑い表情」の再建手術方法

広背筋移植による「笑い表情」の再建手術方法

下口唇部:

口唇下制筋・口輪筋麻痺による下口唇の非対称がある場合は、左右のバランスを取るために正常側の筋肉を切除して弱めたり、ボツリヌストキシンの注射を行うこともあります。

異常共同運動:

不完全麻痺に伴う異常共同運動がある場合の治療は、麻痺の場所と症状によって、上記した手術法のうち、適切な方法組み合わせて行います。また、美容外科手術であるフェイスリフトを応用した麻痺頬部の吊り上げ術、上眼瞼形成術、異常共同運動に対する眼輪筋の一部切除術などを合わせて行い、より自然に近い表情の再建を行います。

 

部位 と手術方法

麻痺が起こった部位によって症状が異なります。また、手術方法も各部位および症状によって適応が変わります。上記の説明と重複しますが、イラストでご説明いたします。

顔面神経麻痺が生じた部位 顔面神経麻痺が生じた部位:前頭部 顔面神経麻痺が生じた部位:眼瞼部 顔面神経麻痺が生じた部位:口角・鼻唇溝・頬部 顔面神経麻痺が生じた部位:下口唇部

A: 前頭部(ぜんとうぶ)

前頭筋麻痺による眉毛の下垂と、上眼瞼の下垂のための視野障害

下垂した眉毛(まゆげ)を挙上する手術を行います。症状の程度や年齢を加味し手術方法を決めます。上まぶたの挙上術を行うこともあります。

B: 眼瞼部 (がんけんぶ)

眼輪筋麻痺による閉瞼機能障害
(麻痺性兎眼)

目を閉じることができるようにすることが、眼瞼部に対する手術の主目的です。上眼瞼にゴールドプレート(金の板状おもり)を入れたり、側頭筋を移行する手術を行います。

C: 口角 ・鼻唇溝・頬部 (こうかく・びしんこう・きょうぶ)

頬部の筋肉麻痺による「笑い表情」の障害

自然あるいは自然に近い「笑いの表情」を再建することが目標です。当科では、波利井主任教授の開発したマイクロサージャリーによる神経と血管を吻合した遊離筋肉(現在では主に広背筋を使います)を頬部皮下に移植する手術方法行っており、世界的にも有名です。

D: 下口唇部(かこうしんぶ)

口唇下制筋・口輪筋麻痺による下口唇の非対称

左右のバランスを取るために、正常側の筋肉を弱めたりします。また、ボツリヌストキシンの注射も行われますが、効果の持続期間は最大6ヶ月位です。

E: 異常共同運動

不完全麻痺に伴う異常共同運動

不完全麻痺の治療は、麻痺の部位と症状によって、A~Dのうちの適当な方法で行います。

当科では、美容外科手術であるフェイスリフトを応用した麻痺頬部の吊り上げ術、上眼瞼形成術、異常共同運動に対する眼輪筋の一部切除術などを合わせて行い良好な成績を得ております。

 

広背筋移植による“笑い”の再建術のご紹介

広背筋移植による“笑い”の再建術のご紹介ビデオはこちら(別ウインドウが開きます)のページにございます。

 

筋肉移植による「笑い表情再建」の術後評価

 1973年9月から2008年12月における、筋肉移植術を行った顔面神経麻痺(656症例)に対する、総合術後評価を下記に示します。

 

*総合評価は、術後およそ2年以上経過した症例を対象としていますので、対象期間が2008年12月になっています。
顔面神経麻痺・広背筋移植術の結果

グレード 5

静止時には 顔面の左右のバランスが良好
「笑い」の表情は自然に近い

グレード 4

静止時には 顔面の左右のバランスは良好
移植した筋肉の収縮が 「強すぎる」か「やや弱い」
「笑い」の表情は やや不自然であるが、患者は結果に満足

グレード 3

静止時には 顔面の左右のバランスは良好
移植筋の収縮が弱い

グレード 2

移植した筋肉に効果的な収縮がない

グレード 1

改善が得られなかった症例

グレード 0

経過観察が出来なかった症例

 

 

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