顔面神経麻痺 (がんめんしんけいまひ) 

 顔面神経麻痺とは、一般に「顔面麻痺(がんめんまひ)」とも呼ばれます。

 顔面麻痺には、「顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)」の他に、「三叉神経痛(さんさしんけいつう)」を含んで総称されていることがあります。

 正しく言えば、顔面神経麻痺は、12本ある脳神経のうちの、7番目の神経(顔面神経)の異常で起こる表情筋の麻痺を指します。

それに対して、顔面神経痛は、5番目の神経(三叉神経)の異状によって起こる、顔面の知覚異常(特に、激痛を伴う痛み)である三叉神経痛のことを指しています。三叉神経痛は脳外科や麻酔科(ペインクリニック)で治療されます。

 

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顔面神経麻痺について、より詳しいページは こちら

   

顔面神経麻痺について

顔面神経麻痺は、下記の症状が、単独または複合しています。

また、顔面神経麻痺は大きく分類すると、急性顔面神経麻痺(きゅうせい がんめんしんけいまひ)陳旧性顔面神経麻痺(ちんきゅうせい がんめんしんけいまひ)に分けられます。

 

顔面神経麻痺の典型的な症状について

  1. 眉毛(まゆげ)が垂れ下がり、左右の眉毛の高さが違ってくる。患側のまぶたがかぶさって開けにくく、ものが見にくい。
  2. 目を強く閉じても、麻痺の側はまぶたが閉じられない(麻痺性兎眼ーまひせいとがんーと呼ばれます)。
    このため、目が乾燥して痛い、または石鹸やシャンプーなどが目に入ってしまい、 ひどい時は角膜が潰瘍を起こして混濁するため、視力が無くなることもある。
  3. うまく笑うことができず、笑うと顔が曲がってしまう。
    *この症状が患者さんを一番悩ませるものです
  4. 口をとがらせにくい、または口角が下がって食べ物がこぼれやすい。
  5. 目をつぶるときに不自然に頬が動いたり、頬を動かすと不自然に目が閉じてしまう。または白目になってしまう。 (異常共同運動といいます)
顔面神経麻痺のイラスト

 

 

 

左の図は、典型的な完全顔面神経麻痺の症状のイラストです

 

* マウスポインタを、イラストの上に移動してみてください。 (目を閉じた状態になります)

 

1.急性顔面神経麻痺

 顔面神経麻痺の70%以上は、ある日突然に起こる麻痺で、鏡を見て顔が歪んでいるので気がつきます。これは、ヘルペス・ウィルスの感染症(ベル麻痺とハント症候群があります)や神経炎による急性麻痺です。残りの約30%は、脳腫瘍(特に聴神経腫瘍)の切除や、耳下腺腫瘍切除時の神経切断、外傷による神経切断、脳卒中の後遺症などが原因で起こります。

 ウィルスによる感染症や、神経炎により起こる急性顔面神経麻痺は、薬物投与などの保存的治療で、その80%近くが1年以内に完治します。いわば、神経の風引きのようなものです。しかし、数%は完全麻痺、10数%に異常共同運動を伴う不完全麻痺という後遺症が永久に残ります。風邪引きでも肺炎を起こして重症、あるいは死ぬこともあるのと同じです。

 特に、疱疹(ほうしん)ウィルスの感染症であるハント症候群では、麻痺の後遺症が、単純性ヘルペスウィルスとされるベル麻痺よりも高い確率で起こります。なお、麻痺の後遺症が残ったものを陳旧性顔面神経麻痺(ちんきゅうせい がんめんしんけいまひ)と呼びます。

当科では急性麻痺から陳旧性麻痺まで、すべての顔面神経麻痺の治療を総合的に行っております。

 

2.陳旧性顔面神経麻痺(ちんきゅうせい がんめんしんけいまひ)

 一般に体の筋肉は神経が損傷されてから1年以上経過すると、脱神経性萎縮と呼ばれる萎縮(いしゅく)に陥り、回復が不可能になります。すなわち、筋肉が死んでしまった状態です。

 顔面神経麻痺を起こす表情筋は、四肢の筋肉よりも回復力があり、2年以内に顔面神経が回復すると、動く(収縮する)ようになる可能性もありますが、2年以上経つと、もとには戻らなくなります。この状態を陳旧性顔面神経麻痺と呼び、完全麻痺と不完全麻痺に分けられます。

 陳旧性顔面神経麻痺の原因は、先にも述べたようにベル麻痺やハント症候群の一部(これらには不完全麻痺や異常共同運動を伴う麻痺が多い)や、脳腫瘍、耳下腺腫瘍、外傷などによる顔面神経切断などです。また、先天的に生じた麻痺や、分娩時に発生する麻痺などもあります。

 当科では、波利井主任教授が1974年に世界で初めて成功した、マイクロサージャリーを使った神経血管柄付き自家遊離筋肉移植による「笑い表情」の再建を中心に、麻痺のタイプや部位によりさまざま方法を組み合わせて、複雑な顔面の表情をできるだけ回復させる「Total Facial Reanimation(TRF)法」を行っております。

 

3.陳旧性顔面神経麻痺の症状

 顔面の半側に約20個存在する(両側に対称の形で存在)表情筋の麻痺により、以下のような後遺症が起こります。麻痺は、ごく稀な例(メビウス症候群と呼ばれる先天性麻痺)を除いて片側に起こり、このために顔のゆがみがひどくなります。顔がまったく動かない完全麻痺と、ある程度の表情ができる不完全麻痺とがあります。

 *下の図は、いずれも向かって左側に麻痺がある症例です。
 *マウスポインタをイラストの上に動かすと、目を閉じた状態になります

1)患側(麻痺側)の動きがまったくないタイプ(完全麻痺)

  1. 前頭筋が麻痺するため、片側(麻痺側)の眉毛(まゆげ)が上げられず、左右の眉毛の高さが違ってくる。眉毛が下がり、上まぶたが上げ難くなるため、ものが見にくくなる。額の皺がなくなる。
  2. 眼輪筋が麻痺するために目が閉じられず、そのため乾燥して痛い、また、石鹸やシャンプーなどが目に入ってしまう。ひどいときは角膜が潰瘍を起こして混濁するため、視力が無くなる(麻痺性兎眼と呼ばれます)。
  3. 笑うときに顔が曲がってしまう(良い側に引きつれる)。
  4. 口輪筋や下口唇筋肉の麻痺のため、口が尖らせず、また、口角が下がって食べ物がもれやすくなる。

 

完全顔面神経麻痺

2)患側(麻痺側)の動きが弱いタイプ(不完全麻痺)

不完全麻痺の症状は、ベル麻痺やハント症候群の後遺症としてもっとも多く見られます。

  1. 患側の眉毛が下がっていることが多い
  2. 目は閉じられることが多い 
  3. 笑うと左右の頬の非対称が目立つことが多いが、ひどくはない、など、麻痺の程度により症状が異なります。

 

不完全顔面神経麻痺

3)異常共同運動のある不完全麻痺

異常共同運動は不完全麻痺に起こります。口を尖らすと目が閉じてしまう、「イー」という動作で目が閉じる、あるいは目を閉じると口角がつり上がる、など顔面の不自然な動きが起こります。

顔は動くのですが、不自然なため患者さんが悩むことの多い症状です(治療法は以下を参照ください)。

異常共同運動のある不完全顔面神経麻痺

 

4.症状 と手術方法

 症状は麻痺が起こった部位によって異なります。

 手術方法も各症状によって適応が変わりますので、下記に一覧として示します。

顔面神経麻痺が生じた部位 顔面神経麻痺が生じた部位:前頭部 顔面神経麻痺が生じた部位:眼瞼部 顔面神経麻痺が生じた部位:口角・鼻唇溝・頬部 顔面神経麻痺が生じた部位:下口唇部

A: 前頭部(ぜんとうぶ)

前頭筋麻痺による眉毛の下垂と、上眼瞼の下垂のための視野障害

下垂した眉毛(まゆげ)を挙上する手術を行います。症状の程度や年齢を加味し手術方法を決めます。上まぶたの挙上術を行うこともあります。

B: 眼瞼部 (がんけんぶ)

眼輪筋麻痺による閉瞼機能障害
(麻痺性兎眼)

目を閉じることができるようにすることが、眼瞼部に対する手術の主目的です。上眼瞼にゴールドプレート(金の板状おもり)を入れたり、側頭筋を移行する手術を行います。

C: 口角 ・鼻唇溝・頬部 (こうかく・びしんこう・きょうぶ)

頬部の筋肉麻痺による「笑い表情」の障害

自然あるいは自然に近い「笑いの表情」を再建することが目標です。当科では、波利井主任教授の開発したマイクロサージャリーによる神経と血管を吻合した遊離筋肉(現在では主に広背筋を使います)を頬部皮下に移植する手術方法行っており、世界的にも有名です。

D: 下口唇部(かこうしんぶ)

口唇下制筋・口輪筋麻痺による下口唇の非対称

左右のバランスを取るために、正常側の筋肉を弱めたりします。また、ボツリヌストキシンの注射も行われますが、効果の持続期間は最大6ヶ月位です。

E: 異常共同運動

不完全麻痺に伴う異常共同運動

不完全麻痺の治療は、麻痺の部位と症状によって、A~Dのうちの適当な方法で行います。

当科では、美容外科手術であるフェイスリフトを応用した麻痺頬部の吊り上げ術、上眼瞼形成術、異常共同運動に対する眼輪筋の一部切除術などを合わせて行い良好な成績を得ております。

 

5、広背筋移植による“笑い”の再建術のご紹介

*ビデオの左下にある再生ボタンをクリックすると再生します。

*ビデオの表示・再生にはAdobe Flasf Player (無料)が必要です。ダウンロードはこちらから

顔面神経麻痺

手術方法の解説

≪音声あり≫

実際の症例

広背筋移植による再建術

≪音声なし≫

6.筋肉移植による「笑い表情再建」の術後評価

 1973年9月から筋肉移植術を行った顔面神経麻痺に対する、総合術後評価を下記に示します。

 

*総合評価は、術後およそ2年以上経過した症例を対象とします。
このグラフは、対象期間2016年12月までの評価です。
(最終更新:2018年10月23日)

グレード 5

静止時には 顔面の左右のバランスが良好
「笑い」の表情は自然に近い

グレード 4

静止時には 顔面の左右のバランスは良好
移植した筋肉の収縮が 「強すぎる」か「やや弱い」
「笑い」の表情は やや不自然であるが、患者は結果に満足

グレード 3

静止時には 顔面の左右のバランスは良好
移植筋の収縮が弱い

グレード 2

移植した筋肉に効果的な収縮がない

グレード 1

改善が得られなかった症例

グレード 0

経過観察が出来なかった症例

 

 

 

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