新しい創傷治療法 「陰圧創傷治療システム」
難治性創傷の治療に新しい治療法が承認されました
新しい創傷治療法「陰圧創傷治療システム(いんあつ そうしょう ちりょう しすてむ)」は、KCI社の「V.A.C.ATS®治療システム(VAC療法)」により、難治性の傷を被覆材で密閉し、専用機器で吸引して陰圧状態を維持しながら創傷の治療を行う方法です。
2009年11月に厚生労働省から承認を受けて、2010年4月より保険診療で使用できるようになりました。
なお、陰圧創傷治療システムは、局所陰圧閉鎖療法(きょくしょ いんあつ へいさ りょうほう)、VAC療法(ばっく りょうほう)など、いくつかの名前で紹介されています。
2010年10月7日の朝日新聞の医療ページにも紹介されました。
深いキズ 吸って治す
“フィルムで覆う→吸引で刺激→新組織作りやすく”
重い床ずれや糖尿病が悪化した足の治療など、治りにくいキズの新治療が今春から全国に普及し始めている。キズの部分をスポンジとフィルムで覆い、ポンプに管でつなげて吸引する。・・・(2010年10月7日朝日新聞30面より抜粋)
ご存知ですか?その3: 難治性創傷(なんちせい そうしょう)とは?難治性創傷(なんちせいそうしょう)とは、糖尿病や血管の障害が原因で生じた四肢(主に足)の潰瘍、および褥瘡など、慢性化したなおりにくい傷のことです。 明確な定義はありませんが、通常、新しい外傷や手術の縫合創は1-2週間で治ることが多く「急性創傷」と呼ばれています。 これに対して2-3週間以上経っても治らない傷は「慢性創傷」と呼ばれ、難治性の傷として扱われます。たとえば、糖尿病性の潰瘍や褥瘡の患者さんは、高齢の方が多く、かつ、全身の血行が悪いことが多いため、傷を治す体の仕組み(創傷治癒の機能)が働きにくくなります。そのため、傷が治りにくく慢性化しやすくなります。 このため、難治性の傷は、高齢化や生活習慣病の増加により、患者さんが増える傾向にあります。
なお、余談ですが「創傷」については、Dr.Hariiの気まま日記にもちょっぴり記載していますので、読んでみてください。 |
陰圧創傷治療システム(VAC療法、局所陰圧閉鎖療法)とは?
傷口を保護して陰圧状態を作ることによって肉芽(にくげ)形成を促進します。また同時に、感染性のある老廃物や傷口からの浸出液を吸引して排除します。このため、傷の周囲の血流が増加して血行が促進されるため、傷を治すための環境が整ってきます(創傷治癒機能の回復)。そのため、傷の治りがより早くなります。
*肉芽(にくげ)とは: 傷を治すために人体が作る新生組織のこと |
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陰圧創傷治療の実際 | |
「V.A.C.ATS®治療システム (VAC療法)」 KCI社 |
新しい創傷治療法として、陰圧創傷治療システム(VAC療法、局所陰圧閉鎖療法)は、創傷にポリウレタン・フォーム材(スポンジ状の物質)を当て、上から被覆材(付属のフィルムドレープ)をかぶせて密閉します。
ここに小さな穴をあけて吸引用のチューブを密着させ、陰圧状態をつくるコンピュータ制御の専用機器に接続します。この陰圧状態をつくる専用機器は、センサーで密閉状態の維持や圧力を確認しながら、陰圧をコントロールする機能を持っていますので、陰圧の状態を常に把握することが出来ます。
また、異常時には警告音が鳴る安全装置も備えています。
現在、使用を許可されている専用システムは、KCI社の「V.A.C.ATS®治療システム (VAC療法)」だけですが、同社の臨床試験(国内の11の医療機関で計80人の患者を対象にした治験)の結果によると、傷の閉鎖にかかった日数は、「V.A.C.ATS®治療システム (VAC療法)」使用では平均17.7日という結果を得ました。
従来の治療を行った場合の平均日が63.5日に比べて、圧倒的に期間が短縮されています。
当科でも、このシステム(VAC療法、局所陰圧閉鎖療法)を使用することが出来ます。
この陰圧創傷治療システム(VAC療法、局所陰圧閉鎖療法)を使うことによるメリットは?
1 |
傷口が閉鎖するまでの期間が短縮されるため、治療・入院期間が短縮されるようになります。 |
2 |
従来の難治性創傷は、患部の広範囲切断や皮弁移植術(皮膚を皮下組織も含めて移植すること)という大がかりな手術が必要になることが少なくなかったのですが、局所陰圧療法が成功すれば、足を切断する場合でも範囲が小さくて済んだり、皮膚だけの移植や縫合といった、より簡単な手術で済むことが可能となります。 |
3 |
全身状態が悪くて外科手術に耐えられない難治性創傷の患者さんにとって、より小さな侵襲の少ない手術で治癒する可能性をもたらすことが出来ます。 |
このように、陰圧創傷治療システム(VAC療法、局所陰圧閉鎖療法)は、従来の治療方法に比べて患者さんの負担軽減が期待されます。今後、増加傾向にある高齢化や生活習慣病の患者さんへの新しい治療方法として、大きな期待を寄せています。難治性潰瘍や下肢救済・フィットケアの治療法として注目しております。
当科でも、本治療法を行っております。