頭頸部がん切除後の再建・耳下腺腫瘍
頭頸部がん(顔面、口腔や食道のがん)では手術により物を食べることが不自由になったり、声が出なくなったりします。時には、がん治療後に顔面やあごに高度な変形が残り、人前に出にくい状態になりますので、再建手術が必要になります。(*頭頚部は「とうけいぶ」と読みます)
杏林大学形成外科では波利井主任教授・多久嶋教授以下、がんの再建手術のエキスパートがマイクロサージャリーを使った遊離組織移植手術を行い、がん患者さんの社会復帰の手助けをしております。 また、国立がんセンター東病院 名誉院長(現、杏雲堂病院院長) 海老原敏 博士を客員教授に招き、国立がんセンター病院頭頸科で長く勤務した平野浩一准教授(耳鼻科・頭頸部がん専門医)が、頭頸部がんを切除と同時に再建する手術も充実させております。
頭頸部再建 (とうけいぶさいけん)
頭頸部(とうけいぶ)とは、首から上の部分を言いますが、主に対象となるのは口腔、咽頭、喉頭、鼻・副鼻腔や頸部食道などの粘膜で覆われた領域や、頭皮、顔面皮膚などの外表部分、そして頭蓋骨、顔面骨(上・下顎骨など)などの骨組織などです。
頭頸部は、顔面の形や表情を形成しているばかりでなく、嗅覚・視覚・聴覚から嚥下・咀嚼・構音・発声といった日常生活で極めて重要な意味を持つ機能を担っています。したがって、頭頸部がんの外科的切除後の再建は、患者さんの術後のQOL(quality of life:生活の質)の向上にとって必要不可欠です。そのため、この領域の再建には形成外科的な手技が多用されております。
再建の対象となることが多い疾患としては、舌がん、口腔底がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、上顎がん、歯肉がん、耳下腺がん、皮膚がんなどです。
再建には種々の方法がありますが、当科で特に用いられる手技は、手術用顕微鏡下の血管吻合(マイクロサージャリー)による遊離組織移植(遊離皮弁)術です。これにより、術後合併症の減少、良好な機能・形態が得られるなど、治療成績が向上しました。
代表例では、
(1) 下咽頭・頸部食道がん切除後の再建における遊離空腸移植術
(2) 舌がんに対する舌全摘・亜全摘後の遊離皮弁による再建
(3) 血管柄付き骨移植による上下顎の再建
などが挙げられます。
なお、上記のようながん切除と同時に行う即時再建ばかりでなく、がん治療後の2次変形(残存変形)に対しても、形成外科的な手技は大変有用であり、患者さんの社会復帰に大きな福音となっています。
(1) 下咽頭・頸部食道がん切除後の再建における遊離空腸移植術
下咽頭・頸部食道がん切除後に、失われた食道部分を、遊離空腸移植により食道再建を行った症例のイラスト |
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(2) 舌がんに対する舌全摘・亜全摘後の遊離皮弁による再建
舌がんによる、舌全摘(あるいは舌亜全摘)によって失われた舌を、遊離皮弁によって再建を行った症例のイラスト |
耳下腺腫瘍 (じかせんしゅよう)
耳下腺腫瘍とは耳下腺(耳の前から下にかけて広がる唾液腺)の中に出来る腫瘍です。そのうち9割くらいは良性腫瘍で、多型腺腫とワルチン腫瘍が多いと言われます。特に、多型腺腫は長期間放置することにより悪性腫瘍に変化することもあるので(数%~十数%の確率と言われています)、ある程度の大きさの腫瘍であれば切除するべきです。
耳下腺内には顔面神経(顔の表情を作る筋肉を動かす神経)が走行しています。大部分の耳下腺腫瘍は顔面神経より浅い部分にできますので、腫瘍を切除する場合は、できるだけ顔面神経を損傷しないようにすることができます。しかし、腫瘍が神経を巻き込んで増殖している場合には、どうしても神経を犠牲にしなければならない場合もあります。その場合には、当科では神経吻合や神経移植を行い、術後に重い麻痺が起こらないような処置を行っています。
不幸にして腫瘍が悪性であった場合には、広い範囲の神経を犠牲にして大きく切除しなければなりません。このような場合には、筋肉移植による再建を行うこともあります。
当科では頭頸部悪性腫瘍の専門医がおり、再発の危険性を極力低くするような治療を心がけています。
(なお、耳下腺腫瘍切除後の顔面神経麻痺の治療についてはこちらをご参照ください)
左耳下腺腫瘍(多型腺腫)とMRI所見(写真右の矢印) |