形成外科的な手技について(代表的なもの)
形成外科的な治療を行う上で、形成外科医が特に必要とする手技がいくつかありますので、代表的な方法をご紹介いたします。
難しい言葉ですが、形成外科医はこのような手技を用いて、治療を行っています。 一度、じっくり読んでみてください。 |
1.真皮縫合法 (しんぴほうごうほう)
皮膚縫合は外科手技のなかでももっとも基本的な手技ですが、傷跡ができるだけ目立たないようにするのが形成外科的縫合法(真皮縫合法)です。一般に、皮膚縫合は皮下脂肪、皮膚と2箇所で行われますが、これでは皮膚の緊張で後日、傷跡が幅を持って目立つようになります。
真皮縫合法は、皮下にある真皮層という強い組織に糸を掛けて縫合して、皮膚を寄せておきます。そして、 皮膚の緊張が無い状態にしておき、できるだけ細い糸で皮膚を縫合することによって、針跡のない細い傷跡にする方法です。
2.デブリードマン
外傷などで生じた挫滅創(ざめつそう)は、縫合する前に創縁部の壊死組織や汚れた組織を取り除いておく必要があり、デブリードマンと呼ばれます。砂や泥などの異物が混入している場合は、ブラッシングなどにより丁寧に除去します。壊死組織やこれらの異物は、後日、感染源となって創の治癒を遅らせる原因となるからです。泥や砂が皮下に残ってしまうと外傷性刺青(右の写真)となり、整容上から形成手術が必要となる場合もあります。
3.植皮術 (しょくひじゅつ)
皮膚欠損が大きく、縫合による閉鎖が不可能な場合に植皮術を用います。植皮には以下の3つがありますが、通常「植皮」という場合は自分の皮膚を用いる自家遊離皮膚移植を指します。
(A) 自家移植:
自分の皮膚なので免疫拒否反応はありません。使う皮膚の厚さで、分層植皮から全層植皮までいろいろな方法があります。もっとも良く使われる方法です。
分層植皮の採取 (ダーマトームという皮膚採取器で採取します) |
(B) 他家移植(冷凍保存死体皮膚):
生着はしませんが、生体包帯として重症広範囲熱傷などに救命のために使用します。
(C) 異種移植や人工皮膚:
包帯としての役割で、豚や牛のコラーゲン膜があります。最近では、さまざまな人工被覆材(人工皮膚)が開発されてます。また、培養皮膚の利用も始まっております。
また、皮下脂肪なども必要な場合には、血行のある「皮弁」を用います。
4.ティッシュ・エキスパンダー 法
ティッシュ・エキスパンダー法(tissue expander、組織伸展法)は、広範囲な皮膚および軟部組織欠損の修復法の一つです。皮膚の下にシリコン製のバッグ(風船のようなもの)を埋入し、そのバッグ内に生理的食塩水を少しずつ注入することによりバッグを大きくし、3ヵ月ほどでその上の皮膚を伸展させて、皮膚欠損部の修復に利用します。これは、妊婦さんのお腹の皮膚が伸展するのと同じ原理です。
バッグには多種の形態や容量があり、これを使用する部位や大きさによって選択します。また、エキスパンダーが入っていても、自覚は少なく、日常生活だけでなく運動なども普通に行うことができます。
この方法は、主に下記の疾患に適応されます。
(1) 欠損部が広く周辺の余剰組織での閉鎖が不可能な、広範囲な母斑(あざ)や瘢痕
(2) 代わりの無い特殊な組織の再建ー外傷や熱傷による脱毛部分(はげ)に対する有毛部皮膚再建や、口唇などの粘膜、顔面の広範囲な瘢痕や皮膚欠損の再建、など
(3) 立体的な部位の再建ー鼻、小耳症、乳房再建など
ティッシュ・エキスパンダーに用いるバッグ | ティッシュ・エキスパンダー法による 皮膚伸展の原理 |
5.マイクロサージャリー
マイクロサージャリーとは文字通り、マイクロ(微小)+サージャリー(外科)、微小外科のことです。これは、肉眼で行う手術とは異なり、手術用の顕微鏡下で1-2mm程度の血管やリンパ管の吻合、あるいは、神経縫合を行う方法です。形成外科以外でも顕微鏡下の手術は欠かすことの出来ない手術手技ですが、形成外科領域では、顕微鏡下での血管吻合や神経縫合を応用した切断手指の再接着や組織移植による再建手術(遊離皮弁法、free flap)が有名です。細い血管や神経を縫合するマイクロサージャリーの技術を習得するためには、日々の修練と教育施設が必要です。
写真上:マイクロサージャリーを用いて 吻合した直径約1mmの血管
写真左:マイクロサージャリー手術風景
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6.クラニオフェイシャルサージャリー
頭蓋骨や顔面骨の異常や変形に対して、骨を切ったり、削ったりすることで形を整える手術です。切った骨は金属プレートや自分の骨の一部を移植して正しい位置に固定します。この手術の代表的な症例はクル-ゾン病などですが、顔面骨折後遺症による変形の治療や美容目的の骨きり術(例:エラきり術などにも応用されます(詳細を読む)。