皮膚腫瘍
形成外科で扱われる疾患の中で、最も多く治療されているものです。腫瘍(しゅよう=できもの)は体表のいたるところに出現し、中には皮膚の下や筋肉の中のしこりとして触れることもあります。皮膚腫瘍の多くは自分自身の手で触れたり、見えるので、小さなものであっても心配して受診されることが多いようです。
皮膚腫瘍には良性のものと悪性のものがあります。診断が容易な腫瘍もありますが、診断が難しい腫瘍もあり治療方針を決めるために画像検査を必要とする場合もあります。場合によっては、CTやMRIなど何種類かの画像検査を行うこともあります。
どちらの腫瘍であっても治療の原則は切除術となりますが、当科では切除に伴う整容的な損失(目立つ傷や変形など)をできるだけ少なくするため、最良の手術方法を提示しています。特に悪性腫瘍の場合は、確実な根治的切除が求められるため、切除により大きな組織欠損や変形を生じる可能性が高くなります。そのため、欠損した組織の再建や変形を最小限に抑える手術方法が検討されます。
1.代表的な良性腫瘍
1)粉瘤(ふんりゅう、アテローマ)
粉瘤 |
皮膚が皮下組織に入り込んで袋を作った腫瘍です。もっとも多く見られる腫瘍です。皮膚成分であるため、垢(アカ)が袋の中に貯まり、しばしば細菌感染を起こし、赤く腫れて痛く、膿を持つようになります。この状態(炎症性粉瘤と呼んでいます)で受診されることも多く、切開して中の膿を出すことで症状は改善します。治療法は袋をすべて取り除く切除術となりますが、細菌感染が生じている時は手術を行わず、感染が充分落ち着いてからの手術となります。
2)石灰化上皮腫 (せっかいかじょうひしゅ)
石灰化上皮腫 (矢印部分) |
毛根由来の硬い腫瘍で、皮膚の下のしこり(石灰成分のかたまり)として出現します。
小児期に気づかれることが多く、小児の皮膚腫瘍では代表的なものといえます。
腫瘍の成長は比較的ゆっくりですが、悪性腫瘍との鑑別(腫瘍が良性か悪性か判断すること)から、手術での切除術が推奨されます。この腫瘍は顔面にできることも多く、必要最小限の切開で腫瘍切除を行っています。
3)脂肪腫 (しぼうしゅ)
脂肪腫 |
皮下組織である脂肪を由来とした腫瘍です。
体表近くにできることが多いため一般的な皮下腫瘍に準じた手術方法となります。ただし皮膚よりもずっと深い部分(場合によっては筋肉内)にできることもあり、その際は術前に充分な画像診断が必要となります。
腫瘍の大きさにしては症状が少ないため、切除を急ぐ必要はありませんが、腫瘍は少しずつ大きくなるため時期をみて切除術を行います。部位によっては内視鏡を用いて皮膚切開を最小限にする方法も選択されます。
脂肪肉腫などの悪性腫瘍と間違えることもあり、注意が必要です。
4) その他の腫瘍
結合組織由来の腫瘍や神経系の腫瘍もあり、様々な形、症状、組織像を示す腫瘍が存在します。当科ではCT、MRIまたは超音波検査を駆使して的確な腫瘍の術前診断を行い、最適な治療方法を提案しています。
2.代表的な悪性腫瘍
1)基底(きてい)細胞がん
基底細胞がん |
皮膚がんの代表的なものの一つです。
組織学上はがんですが、悪性度としては低く腫瘍から少し離して切除すれば、ほとんど根治的な治療が可能となります。そのため大きな組織欠損を生じることは少なく、そのまま傷を閉じることが可能な場合もあります。しかし、腫瘍が大きい場合には、切除後の皮膚組織欠損の修復のために局所皮弁(近くの皮膚組織をずらす方法)などが利用されます(写真ー基底細胞癌は日光による皮膚の変性と関係が深く、顔など陽にあたる部分に多い)。
2)有棘細胞(扁平上皮)がん (ゆうきょくさいぼう(へんぺいじょうひ)がん)
有棘細胞(扁平上皮)がん |
皮膚がんの中でも比較的悪性度の高い腫瘍です。
根治的な切除のためには、広範な切除範囲が必要とされます。そのため、切除に伴う組織欠損は大きく、しばしば機能的損失も伴います。
整容的、機能的損失の修復のために様々な手術方法が存在しますが、マイクロサージャリーを用いた高度な再建方法も利用されます(写真ー足底に生じた有棘細胞癌。やけどや放射線照射後の瘢痕の上にできやすい)。
3)悪性黒色腫 (あくせいこくしょくしゅ)
悪性黒色腫 |
皮膚がんの中で最も悪性度の高い腫瘍です。
広範な切除に加えて化学療法などの追加の治療が必要になる場合がほとんどです。
正確な臨床診断と治療方針の計画が必要となります(写真ー足底にできた悪性黒色腫)。
4)その他の悪性腫瘍
癌以外の悪性腫瘍である肉腫や内臓がんから由来する転移性の皮膚がんもあります。根治的切除を基本とするため充分な画像検査を行い、最良の治療方針を計画する必要があります。切除後の組織再建は当科が得意とする分野の一つです(がん切除後の再建の項を参考にしてください)。