「気まま日記」の中から、特に顔面神経麻痺に関する記事を、一気に読みたい方の特集ページです
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笑顔の効果
2010年5月30日
私たちは多くの場合、外見(見た目)や印象でその人を判断しがちです。人と接するとき、挨拶や言葉遣いと同様に、表情も重要な要素だと思いませんか?
昨年、「人は見た目が9割」という本も出たりしましたね。
いくら顔の造作が整っていても、無表情や怒った顔ではあまり魅力的には感じないものです・・。ニコニコと笑顔でいるほうが魅力的に見えます。人間関係に良い影響を与えるために「笑顔」や「笑い」というものは重要なことだと、僕は思います。
「笑う」という動作は、他人に対しても影響を与えますが、自分に対しても影響を与えます。 「笑う門には福来る」ということわざのように、イライラした時や悲しい時も、無理してでも笑う(笑うふりをする)と、不思議と心の中が明るくなってきます。また、リラックスできてストレスも解消される(ような気がする)。 また、免疫力が高まり健康にも良いという説もあるようです。
ちなみに僕の場合、「笑い」が良いといっても、ゴルフの時「がっはっはー」と大笑いするのはマナー違反ですし、緊張感がなくなるためスコアもいまいちです。「ふふっ」と微笑んでいる(正しくは、ほくそ笑む)時は、ショットもパットも結構良い感じです。心の余裕とリラックス、そして適度な緊張感がうまい具合にミックスされた場合に、良いゴルフができるのではと思うのですが、残念ながら検証する方法はありません・・・。
そういえば、昔、こんなのも流行ってました!(^-^) |
顔面麻痺とは (1)
2010年6月4日
前回(2010年5月30日)の日記に、「笑い」は人の社会生活において重要な要素であるということを書きましたね。
笑うという動作は、顔面にある表情筋(ひょうじょうきん)とよばれる、数多くの小さな筋肉が働いて作られる非常に複雑で高度な動作です。微笑、大笑い、皮肉な笑いなど、ロボットに人間と同じような笑いをプログラミングすることは、現状ではおそらく不可能ではないでしょうか。(もし、可能だったら認識不足です。ごめんなさい・・)
この表情筋を動かしているのが、脳から直接出ている顔面神経(がんめんしんけい)という1本の神経なのです。 病気や非常に強いストレスなど、何らかの原因によってこの顔面神経がダメージを受けると、顔面の筋肉を動かす表情筋が麻痺を起こしてしまいます。多くの場合、顔の半分に麻痺がおこります。
「ある朝突然に鏡を見たら、顔がゆがんで顔半分が動かなくなってしまった!もちろん笑うことも出来ません。どうしたらいいでしょうか?」
このような症状を総称して「顔面麻痺(がんめんまひ)」または「顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)」と呼びます。
通常の場合、顔面の神経が一時的に麻痺していることが多いので(急性顔面麻痺)、薬物などの治療で半年から1年位すると自然に回復します。
私たちは、無理をして体力が落ちていたり、非常に寒い思いをした時に、風邪をひいて寝込むことがありますね。 急性顔面麻痺は、たとえるとすれば、顔面の神経が風邪をひいたような状態ですので、薬を飲んで安静にして休ませればほとんどが治ります。しかし、風邪でも、こじらせると肺炎になったり、重病につながることもあります。急性顔面麻痺でも原因によっては、急性期を過ぎて(1年以上経過して)も治癒しない場合は「陳旧性顔面麻痺(ちんきゅうせい がんめんまひ)」と呼ばれます。
杏林大学形成外科のウェブサイト内の「顔面神経麻痺(陳旧性顔面神経麻痺)」のページにも記載しておりますが、もう少し分かりやすくご紹介したいと思いますので、今回から数回シリーズで記載いたします。
興味のある方は読んでみてください。
顔面麻痺とは (2)
2010年6月30日
「急性顔面麻痺と陳旧性顔面麻痺について」
前回の日記から、また少し時間が空いてしまいました。続けて書くのは、なかなか難しいものですね。
私たち形成外科医は、顔面まひ(顔面神経麻痺)をFP(えふぴー)と呼んでいます。ちなみにこれは、顔面麻痺の英語名であるFacial Paralysis(顔の麻痺)を略したものです。
顔面麻痺は大きく分けて2つに分けられます 。
1、急性顔面麻痺
2、陳旧性顔面麻痺(ちんきゅうせい がんめんまひ)
陳旧性という言葉は、あまり聞き慣れない言葉ですが、医学的に用いられ「古くなった」という意味の言葉です。
急性顔面麻痺の代表症例は、ベル麻痺やハント麻痺などのヘルペスウイルスなどによるものや、外傷や耳下腺腫瘍など腫瘍を切除したことによる一時的な神経損傷による麻痺が上げられます。耳鼻咽喉科を受診される方や鍼灸院を受診される方などさまざまです。これらは、もちろん当科でも治療を行っています。
ベル麻痺やハント麻痺の多くは、後遺症なく治癒します。しかし、1年以上麻痺状態が続いている場合には、筋肉が萎縮して無くなってしまうため、麻痺の回復が見込めなくなってしまいます。このような状況になったものを「陳旧性顔面麻痺」といいます。
また、顔面麻痺には、完全麻痺と不完全麻痺があります。これは麻痺の状態や麻痺の症状によって区別され、古くより形成外科で治療されてきました。
おーっと! 気まま徒然日記というよりは講義のようになってしまいましたね(笑)。だんだん話しが難しくなってきましたので、今日はここまでとしましょう。
次回は顔面麻痺の症状についてお話いたします。
顔面麻痺の症状(1)
2010年7月6日
「完全麻痺と不完全麻痺について」
一般的に「麻痺」とは、思っているとおりに体を動かす事ができない状態です。正座をした後の足の痺れは、一番身近な1例です。ただし、これはすぐに治るので一過性の麻痺の代表例です。
顔面麻痺は、顔面神経や表情をつくる筋肉(表情筋)がダメージを受けたことで、うまく動かなくなってしまいます。多くの場合、片側だけに症状が出ます。顔の両側に同じように麻痺症状が出ることは極めてまれです。
片側だけに麻痺が起こると、顔が曲がっているように見えます。また、麻痺側の目を閉じることが出来ないこともあります。麻痺側の口角が閉じにくくなり、水を飲む時にこぼれる。というような症状が現れることもあります。このような場合、「笑う」という動作も出来なくなります。
このように、片側だけが完全に麻痺して動かない場合には「完全麻痺」と呼びます。これに対して、麻痺側も少しは動くけれど、正常側に比べると動きが弱く、十分な機能を得られいない状態を「不完全麻痺」と呼びます。顔面麻痺の症状について、顔面神経麻痺のページもあわせて見てください。
完全麻痺 | 不完全麻痺 |
このような完全麻痺や不完全麻痺の状態が1年以上続くと、自然には回復が難しい「陳旧性顔面麻痺(ちんきゅうせいがんめんまひ)」になります。
ちなみに、正常だとこんな感じですか? |
顔面麻痺の症状(2)
2010年7月12日
「不完全麻痺の異常共同運動について」
顔面麻痺には、完全麻痺と不完全麻痺があることを前回書きましたが、不完全麻痺の中には、「異常共同運動(いじょうきょうどううんどう)」が起こることがあります。
これは、目を閉じると、勝手に口角が片側だけひきつれてしまったりします。また、口を尖らせると、勝手に片目が閉じてしまったり…。 このような症状は、患者さんによってそれぞれ違いますが、いずれも、ある動作に共同して(意図せずに勝手に)動いてしまうことです。
これは、本人が意識しなくても、勝手に異常な運動を起こしてしまいます。 このような異常共同運動は、顔面神経が混線して、別の指示を間違えて伝えてしまうことにより、このような症状がでます。よく、患者さんに「電話が混線して別な会話が聞こえてきてしまう状態に似ています」と言って説明します。
今は携帯電話が多いので混線っていうのは変ですが、例えるとすれば、こんなことでしょうか・・・。
完全麻痺:電波がつながらない(圏外)状態
不完全麻痺:電波が弱く(アンテナ1本)会話が途切れたり聞き取りにくい状態
異常共同運動:電波が混乱して他人の会話が聞こえてしまう状態 (実際の携帯電話では、このような状況はありませんが・・)
麻痺で全く動かないのも困りますが、異常共同運動のように、意図せずに変に動いてしまうのも、困ってしまいますね。
難しい話が続きましたので、顔面麻痺についての続き(顔面麻痺の治療についてなど)は、少し間をおいて書くことにします。
顔面麻痺の治療1:
2010年11月30日
「急性麻痺と慢性麻痺の治療法の違いについて」
以前に読まれた方もいらっしゃると思いますが、顔面神経麻痺(FP、あるいは顔面麻痺)について、おもな原因や症状などについて、つれづれに書いてきました(2010年6月4日から記載)。 顔面神経麻痺シリーズの後編として、治療方法などをできるだけわかりやすく、ご紹介したいと思います。少し専門的になりますが、興味のある方は是非読んでください。
以前にも説明しましたが、顔面麻痺には大きく分けて急性顔面麻痺と慢性顔面麻痺(陳旧性顔面麻痺ともいいます)があります。治療を行うに当たって、急性麻痺と慢性麻痺とでは根本的に違ってきます。
急性麻痺の多くでは、神経の麻痺が早く回復すれば筋肉(笑顔などの表情を作るので表情筋と呼ばれます)も動きをとりもどせます。麻痺している期間を短縮させることにより、筋肉の動きを回復させる治療法が必要になります。この場合、内科的治療(薬などによる治療)が主になります。
しかし、1年以上経っても神経の麻痺の回復が認められないような慢性麻痺では、筋肉そのものが萎縮(いしゅく)してしまうので、仮に神経が戻っても筋肉がうまく反応しなくなります。そのため形成外科的治療法をお勧めします。
ちなみに顔が麻痺して動かないということは、筋肉が麻痺しているのではなくて、筋肉を動かす神経が麻痺しているからです。また、長期間、筋肉を動かさないでいると自然に筋肉が小さくなってしまいます。(例えば、大腿部などを骨折した場合に3か月ほど足を動かさないだけで、筋肉が細くなってしまいますね。また、筋肉量の回復にはリハビリも必要になります)。したがって、仮に、神経麻痺が発症してから1年以上経過した後に神経の麻痺が回復した場合、今度は筋肉が小さくなってしまう(萎縮する)ことによって動きにくくなってしまうのです。
ちょっと難しかったかな?
次回は急性麻痺の具体的な治療についてです。
顔面麻痺の治療2:
2010年12月6日
急性麻痺(その1)
前回同様、顔面麻痺についてですが、なかでも「急性麻痺」についての説明です。
症状のおさらいになりますが、ある日突然に発症するベル麻痺や、水痘発疹をともなって発症するハント症候群(麻痺)は、ウィルスの感染症といわれ、急性麻痺の代表例として挙げられます。
ベル麻痺は突然に起きるので特発性麻痺とも呼ばれ、その原因はストレス説、寒冷暴露説などいろいろな意見がありましたが、最近は、単純ヘルペスウィルスI型との見方が強くなっております。
一方、ハント麻痺は水痘帯状疱疹ウィルスが原因とされております。これらのウィルスは、子供の時にかかった水疱瘡(みずぼうそう)のウィルスが体の中に潜んでいて(不活性化)、体調が悪くなったときなどに活性化して症状を出すと言われております。したがって、何度かかかる人もありますが、他人から「うつる」ことはありません。
治療は、いずれの場合も、早期に抗ウィルス剤(アシクロビルなど)やステロイド剤の大量投与(ただし、ステロイドは患者さんの状態で使えないこともあります)、ビタミンB12、血行促進剤など投与します。これらの治療法は耳鼻科、内科、形成外科、ペインクリニックなどで行われ、現在では、その内容には大きな違いがありません。
特に、ベル麻痺は、自然に治ることも多く、90~95%は完全に治癒すると言われています。しかし、ハント麻痺は水痘疱疹ウィルスの神経破壊力が強く、上記の治療を行っても25~39%の方になんらかの後遺症が残ります。
次回は、急性麻痺の治癒・回復までの期間についてです。
全く関係ないですが、杏林病院の近くの野川公園の紅葉です(平成22年11月下旬撮影)。
顔面麻痺の治療3:
2010年12月9日
急性麻痺(その2)
急性麻痺の治療の続きです。
急性麻痺の治療において、治癒までの期間は、早ければ2週間目くらいより少しずつ表情が回復してきます。しかし、突然に、すべての表情が回復することはありません。長ければ1年近くかかることもあります。少しずつ回復して、気が付いたら麻痺症状が無くなっていた(あるいは、ほとんど気にならない)というような感じです。
治療を行う時期に関しては、早ければ早いほど後遺症も少なくなるので、できるだけ早期の治療をお勧めします。特に、ハント症候群では早期治療が重要です(素人診断は禁物です!「なんだかいつもと違う。変だな」などと違和感がある場合は、できるだけ早めに医者にかかりましょう)。
全顔面神経麻痺の約80%を占めるベル麻痺やハント麻痺は(このうち、ベル麻痺が圧倒的に多い)、多くの場合、早期の投薬治療により早期回復および治癒が見込まれます。しかし、麻痺症状が1年以上続くと表情筋自体の萎縮が起こりますので、後遺症を治すために形成外科的再建手術が必要になることもあります。
外傷、耳下腺腫瘍手術、脳腫瘍手術などによる麻痺、先天性麻痺などで、神経や筋肉そのものが切断されたり、無くなったことにより起こる麻痺は、はじめから「非回復性麻痺(ひかいふくせいまひ)」と呼ばれ、症状に応じて、神経移植、筋肉移植などの手術が必要になります
これらの再建手術については、次回以降ご紹介します。
風邪だって、こじらせると肺炎を引き起こして、大事に至る可能もありますから、何事も初期の対処が肝心です!
顔面麻痺の治療4:
2010年12月17日
陳旧性顔面麻痺(不完全麻痺の場合)
ウイルスが原因となるベル麻痺やハント麻痺は、両者で全顔面神経麻痺の約80%を占めます(このうち、ベル麻痺が圧倒的に多い)。残りの20%の麻痺は、脳出血、脳腫瘍手術などによる麻痺、外傷、耳下腺腫瘍手術、先天性麻痺などで、神経や筋肉そのものが切断されたり無くなったことによる麻痺で、「非回復性麻痺(ひかいふくせいまひ)」と呼ばれます(これについては、顔面麻痺の治療3(12月9日)に書きましたね)。このような非回復性麻痺の場合、症状に応じて、神経移植、筋肉移植など形成外科的な再建手術が必要になります。
前の項で急性麻痺について書きましたが、ベル麻痺の約5%、ハント症候群(麻痺)の約20%がなんらかの後遺症を残し、一般的に陳旧性(ちんきゅうせい=慢性と言う意味)麻痺と呼ばれます。脳腫瘍や耳下腺腫瘍の手術、あるいは外傷などで神経が切れた場合には、できるだけ早く神経縫合や移植の手術で麻痺の回復を図りますが、回復しない場合にも陳旧性麻痺の仲間入りをします。
これらの陳旧性麻痺の患者さんの大部分は、ある程度まで表情の回復が得られている不完全麻痺の状態で、多くの場合、医師から「これ以上は治らないからあきらめなさい」といわれてしまいます。確かに、顔面の表情は多くの表情筋が複雑に動いて作り出されるので、不完全麻痺の状態によっては、それ以上の治療は無理なこともあります。
現在、不完全麻痺の治療方法の救世主として登場しているのが、美容外科の治療法をとりいれた再建法です。眼瞼下垂手術(がんめんかすいしゅじゅつ=下がった眉を上げる手術、上まぶたを上げる手術)、ボツリヌス・トキシン注射のほか、フェイスリフト手術で下がった頬を引き上げる(静的再建術)方法が効果的なことが多くあります。しかし、残念ながら、一般の医師にはあまり知られていないので、われわれ形成外科医がもっと宣伝しないといけませんね。
症状や治療方法によっては、保険診療とならない場合もありますので、料金については受診の際にお尋ねください。
顔面麻痺の治療5:
2010年12月28日
陳旧性顔面麻痺(異常共同運動)
顔面の表情筋は左右対称に約20個存在し、それぞれが独立に、あるいは共同で動いて、笑ったり、怒ったり、しかめつらをしたり、口をとがらしたり、目を閉じたり、と複雑な表情を作り出しています。
不完全麻痺の中には動きが弱いタイプと、動きは良いが意図せずに勝手に動いてしまうタイプがあります。後者を「異常共同運動」とよびます。前にも書いたと思いますが、異常共同運動は、不完全麻痺の中で患者さんがもっとも悩んでおられるものですが、一般の医師にはほとんど顧みられることがありません。なぜなら、意図せずに動くけれども、機能的に欠損があるわけではないからです。
異常共同運動の中でも一番多い症状は、口をとがらすと片方の目が閉じてしまうもので、神経質な患者さんは人前で御茶などは飲めないとおっしゃいます。また、逆に目を閉じると頬が動く異常共同運動で、瞬きとともに起こりますので、いつも頬がピクピクしています。もっとも、これらの症状は無い方が良いに決まっていますが、機能的にあまり問題がない場合には、異常共同運動の症状さえ気にならなければ、放っておかれる患者さんもいらっしゃいます。
これらの異常共同運動の治療は、痙攣性(けいれんせい)のものにはボツリヌストキシン注射が有効なこともありますが、永続性がない(約6カ月で効果が切れる)ので、異常に動いている筋肉の一部を切除して制御します。顔に傷などが残らないように、ここでも美容外科的アプローチが行われます。